千葉県│天津ループ橋
滅びの美学 [ 廃墟・廃屋・遺跡・廃村・廃道 ] 探索 - 市原天津小湊線坂本2号橋
房総の道はツーリングや山歩き、沢歩きの場所移動でアチラコチラと走り回るのだけれどずっと工事中の気に成る橋が頭から離れなかった。清澄養老ラインとして実に沢山の方が利用する観光主要道路、県道81号線だ。国道128号線から養老方面へ向う為のメインとして地元の生活道路としては元よりバスや他県の観光で訪れた車が多く通行するこの県道81号線、恐らくは誰もが一度は気に成って視線を向けた工事中のループ橋が在った筈。
国道128号線から県道81号線に折れて約1キロ半、そこには巨大な工事用の鉄骨仮設橋と建設途中のループ橋が目に飛び込んで来るだろう。一般的な通称としては「天津ループ橋」、工事関係者の中では「天津坂本2号橋」、資料によって色々な呼び名が在るけれど正式名称は以下の通り。
「市原天津小湊線坂本2号橋」
まだ日本に帰国したばかりの頃に自転車で走った時は鉄骨の仮設橋さえ完成していなかった、その後サイドカーで通った時もモタードでズリズリの時も一向に完成しないこの橋は一体何の為に作っているのか解らない不思議な橋。その謎を解く切っ掛け迄はこの橋を知ってから20年近くの時間を要する事に成る。
時は移って山の相棒と「割橋」を初めたのが2年前、ああ…そう言えば房総に丁度御誂え向きの鉄骨橋があるじゃないかと記憶が呼び戻される。それから少しづつこの橋に関する情報を集めるものの機会に恵まれなくて片思いする事1年半、待ちに待ったご馳走をやっとこさで頂きにやって来ましたよ「天津ループ橋」さん。
この橋に関する詳細はいつも通り最後尾に記載するので興味の在る方は是非お読み下さい、それでは魅惑の二重螺旋「天津ループ橋」のレポートを始めましょうか。
ああ、もう駄目だ。始める前からこの迫力に殺られてまうわ、どないしよ。山間部に突然と現れる巨大建設物に相棒のボルテージもアンリミテッド、防寒服も既にエクスポロージョン寸前だ。
スタート直後の不幸に見舞われた私達だったが悲しんでばかりではいられない、彼の死を無駄にしない為にもこの巨大な鉄骨橋を割ってやんよ。まずは簡単な経過概要から。
2008年ではこの状態、まだ工事車両の為に仮設鉄骨橋さえ完成していない。その、この真っ赤に錆止め塗料が塗られた鉄骨は本来の橋ではなく、工事車両が走行する為の仮設橋。写真手前の建設中のコンクリート基礎部分が今後延びて道路と成る。
写真引用:マルセ的世界│http://maruse164.blog47.fc2.com
2年後の2010年、綺麗な二重螺旋が完成しつつ在りますね。本来の道路と成る部分が迂回出口まで延びてもう少しで連結されそうな迄に工事が進みました、本当はこの時期に行きたかったんですよ。この時なら橋の主柱からも降下出来ただろうなぁ。
写真引用:風に向かう刻│http://samurai.blogzine.jp/kaze_toki
更に2年後、2012年。迂回用のループ橋はほぼ完成して前後の山間部を切り開く工事が始まります、道路が出来れば現在の九十九折れは廃止されてループ橋と新設迂回路が使用されます。勿論このループ橋自体は完成した訳なので仮設鉄骨橋はこれから解体作業に入る訳です、今回の訪問は解体前にギリギリ間に合った状態でした。
写真引用:道にあるちょっと古いもの│http://ameblo.jp/papagenopapagena航空写真だとこんな感じ、道路の完成度から見ると今年の撮影と思われる。これから現在の県道81号線を大きく迂回する形で山間部を切り開き、新県道81号と成る迂回道路が建設される。
航空写真から地図モードにすると道路の予定路図が表示されます。
「突然の死」を迎えた筈の相棒も何時の間にかその辺で写真を撮り始めているので此方も撮影開始、それにしてもボディハーネス着けてカメラと機材もパッキングすると動き辛くていかんな。
これから挑むこの仮設橋は斜面に作られていて上段と下段では仮設橋の高低差が違う、最上部から最下部(斜面下部の地上)迄は恐らく30メートル(鋼台単一では最大25メートルの高さ)以上の差が在るのだけれどパっと見た感じは「君津エース」の方が高さを実感出来る。
まあ兎に角機材を落さん様に、それとハーネスとカラビナの確認を怠らずに行きましょうか。
きゃん○まがモゲそうな素晴らしい光景が飛び込んで来た、これは確実にモゲるな。とか思ってたら相棒の方が先にモゲた。
若いだけあって元気が良い、跳躍に勢いを感じる。
ほうほうの体で確保した相棒のアレだったが易々と返すわけにもいきますまい、世の中金次第だよ、キンだけにな。ほーら、こっちだー。
早くしないとおでんの具にしちゃうぞー。
激昂した相棒に奈良づくしをお見舞いされ、危うくアレする所だったがどうにか落ち着きを取り戻して撮影再開。
しかしコレは本当に凄い風景だ。
ホーリーシッ
来て良かった、すっかりとこの大きなジャングルジムの虜に成っちまったよ。しかし中々と高さを表現した1枚が撮影出来ない、設置場所が複雑で構図が難しいんだよなぁ…と思ってたら。
相棒が撮ってくれてた。
生きてて良かった。この上ない喜びであります。
うん、高所興奮症の割橋ストにとってこの複雑なトラスと高さは呑み過ぎた翌日の味噌汁より旨い極上のご馳走です。
(photograph : +10)
おや?
余りの美しさに何か格好良い事を言いたくなった。
「時に無言とは、有象無象なる言葉より雄弁となる(キリッ」
「…だったら無言で語れよ」
「ヒリヒリするなぁ君の言葉は」
「片腹☆大激痛~」
ドラム缶にねじ込んで硬化ベークライト流し込んでやろうかと思ったが生憎とさっき飲んだモーニングショットの空き缶しかないので止めた。リターンアプローチの最中も撮影は続き、静寂の山中に時折響くシャッター音は文明開化の音がした。
さあ帰ろう、僕らのマイホーム(病室)へ。
市原天津小湊線坂本2号橋
通称「天津坂本2号ループ橋」、「天津坂本2号橋」や「天津ループ橋」とも呼ばれる建設中の巨大ループ橋。その美しい二重螺旋は本道(ループ橋)と工事車両用の仮設鉄骨橋が併設されているから。
初期構想は1980年代後半、県道81号線上で一番カーブ角が酷く九十九折れの箇所を大きく迂回して安全走行の向上を考慮して発案された大規模道路工事計画だった。計画書では1991年から2010年の約20年で完成する予定だったが途中事業計画の見直しや予算補正案などの問題も山積して中断時期が発生する、2005年から再度計画が練り直され全工程の完成は2020年に延期された。
現在県が公開している工事期間については下記参照。
千葉県 - 主要地方道市原天津小湊線
http://www.pref.chiba.lg.jp/cs-awa/douro/shuyouchihou.html
建設途中の見学会など近年は工事進行に行政も気を使い、今後の観光主要道路としての改善策事案の一つとして重要視している様です。見学会の模様は下記リンクより。
土木の風景 - (仮)坂本2号ループ橋 no.247
http://blog.livedoor.jp/gijutunohiroba/archives/51318573.html
その後の見学会や関係者研修会の模様は下記リンクより。
千葉県地質調査業協会ホームページ - 安房地域整備センター合同研修会
http://chisitsu.livedoor.biz/archives/1422162.html
事業計画の当初の予定通り最初の10年(2000年期)でループ橋を含む迂回路(新県道81号区間)の始点部分980メートル、終点部分800メートルの工事は順調に進んでいた。記述の問題も在って数年の工事中断期間を経て2005年に新たに事業計画を発案、2013年前期にループ橋部分も完成し残すは橋を挟んだ迂回路の道路部分だ。
未供用区間はループ橋部分から先の940メートル(ループ橋を含む)、現在の県道81号線から山間部を大きく迂回する形で切り開く為の大規模な工事も今後予定されている。
県としても地方行政としてもこの工事は何としても2020年までには完成させたい理由が在る、特に地方行政の焦りが如実に解るのは近年の海岸沿い観光能力の弱体化。山中側(養老温泉側)には七里川温泉、養老温泉を始めトレッキングコースや単発の観光名所がまだまだ集客を見込める状態だ。しかし鴨川から勝浦に掛けての海岸沿いの温泉宿や鮮魚割烹などの店舗数は年々減少し続け、海水浴客もピーク時に比べると半分以下と言う現状。
そんな中、2021年に日蓮の生誕800年と言う記念期を迎える。誕生寺や清澄寺など関連する宗派施設は記念行事を年を通して予定していてその記念行事にあやかる周囲の観光施設も多い、つまり落ちる金額の大きいイベントの前に観光主要道路を完成させたいのだ。
現在の道路状況だと大型の観光バスはこの県道81号線を通過する事が出来ない、元々は山間部の安全通行が事業計画の基本だったのだけれど時代背景を反映してか2021年の為にどうしても完成させたいのがこの「市原天津小湊線坂本2号橋」の正体と言う訳だ。
山歩きをしている方にはご存知かもしれないけどこの周辺には一般には全く認知されていない旧道なども在りまして、その中にはこの迂回路と交差する部分も在って今後問題化しそうな事案もちらほらと。
ままま、完成したら便利に成るのは確実な道路なので是非完成して頂きたいものですねぇ。と、言う感じで今回のレポートは以上です。
アプローチ
国道128号線から養老渓谷方面へ折れる清澄養老ラインがこの県道81号線です、県道に入ってから1キロ半程で建設中の天津ループ橋と成ります。
photograph - nee