埼玉県 │ 秩父鉱山雁掛沢(雁掛第五坑道口/処理鉱水坑口)
滅びの美学 [ 廃墟・廃屋・遺跡・廃村・廃道 ] 探索 - 秩父鉱山雁掛沢
沢屋では有名なニッチツの敷地内(放置区域)を含む六助沢、適度なガレと川の流れ、そして険しい大小様々な滝。廃虚好きの沢屋なんて見た事もないからこの両方を楽しめる場所って言ったら随分前からツバを垂らす、いや付けておいてもオカシクない。
散々遊ばせて頂いたニッチツだけど沢でアタックは今回が初めて、そして残念な結末を迎えるこの物件へのアプローチ。色々と来るのが遅過ぎた感は在るけれどその美しい自然は健在でして。
一粒で2度も3度も美味しいこの物件のレポートを始めようか。
沢屋で有名な六助沢だけれどグルッと回ると雁掛沢と合流して下る事に成る、今回はその降りルートを遡上する形で幾つかの鉱山遺構を撮影しようと現地にやって来た。中津川水系の沢には散々と苦労させられてきたけどこの雁掛沢は緩い、本当に緩過ぎて軽いトレッキングの様な感じ。沢屋さんなら困るポイントは一切無し、六助沢は危険な場所が結構在るけれどこの秩父鉱山遺構を狙うルートは恐らく運動不足の方でも歩ける位だと感じた。
が、勿論オススメはしない。それなりタイトな場所や滑落の危険性は在るルート、あくまでガレ好きの沢屋の所見だと思って下さい。それではまず今回のルートをご説明しましょう。
地図の雁掛トンネル先1キロ程の場所に車をデポ、そこから閉鎖された鉱山道を登り「工具保管小屋」を最初のポイントとして雁掛沢を遡上する。遺構を全て見ると半日は消費するので撮影意欲が沸いた物だけ選択、沢も途中まで登って撮影した後に多少の迂回は在ったけど来たルートをなぞって帰路とした。
旧鉱山道を登り始めると直ぐに「工具保管小屋」が姿を現した、勿論現在では使用されていない。この道自体殆ど使用されていないのだけれど運が悪いと鉱山関係者と鉢合わせする事に成る、それはこのニッチツが抱える鉱水の処理施設の補修や新規建設に伴う工事の時。
実は今回もその工事の直ぐ後に来た所為で一番楽しみにしていた風景を拝む事が出来なかった、と言うか恐らくに二度と見る事が出来ないかもしれない。
「工具保管小屋」の場所はココ、9月中旬だと言うのに紅葉が始まっていたのには驚いた。地元の千葉県では連日30度越えの残暑がココでは嘘の様。
秩父鉱山の雁掛第一坑道口が在る「第二沈殿池」、他にも「第二沈砂池」や「第二堆積場」などの呼び名が在るが鉱山としての正式名称は「秩父鉱山第二沈殿池」。排鉱水の処理を保留(鉱水処理と埋立処理の分割)する為に作られた池、現在新たに検査と処理の為の縦口戸を製作中で鉱山施設内に在るシックナーまで伸びた排水管も新しく(2012年新規設置)された。
秩父鉱山に関する社歴と周辺地域の問題を纏めた冊子が行政に保存されているので詳細を知りたい方は各々調べてみて欲しい、また足尾銅山同様に自然汚染の問題を多数抱えていてコノ場所もその一つ。一見自然に帰りつつ在る様に見えるけど実の所は重度汚染区域だったりします。
この場所、定期検査では群生植物の汚染濃度、掘られた側溝に沁み込んだ土壌汚染度、各気象下においての空気汚染度を年に数度計測している。全然使われて居ない様に見えて以外と頻繁に鉱山関係者の車両が「第二沈殿池」へやって来ます。
車両はこの先の「雁掛第一堰堤」まで乗り入れされていて勿論当日も新しい轍を発見しました、こりゃ中々来れないのかなぁ。六助沢からの帰路として便利なんだけどなぁ。
幾つかの砂防堰堤と鉱水処理堰堤を巻いてやって来ました「雁掛精錬所」、と言っても簡易精錬所として使用されていて鉱脈に沿って幾つかの関連施設が今でも残されている。建設に併用された空中索道と鉱山軌道が崩壊した現在、この施設群を解体する術が少ない状況だ。
精錬関連施設の中で現存する最大規模の遺構「圧機室」へ到着、中には1957年に日立製作所が製作した大型コンプレッサーが鎮座していた。
「こ、これは…圧機室…」
「知っているのか、雷電!」
「と、書いてある。」
「どすこい喫茶かよ…。」
どうにもホコリっぽくて宜しくない。
埃「吸いたいんだろ?体は掃除機だな」
周囲には崩壊した小屋3軒、辛うじて建っている検査小屋1軒が見て取れる。また今回の最大の目的だった大捷坑の鉱水の排水現場の撮影、赤岩鉱床と六助鉱床からの砕石を繋いだ空中索道跡、六助鉱床へと続く通洞坑など見所が集中しているので期待が膨らむ。
さて、それでは見せ場と成る大捷坑ちゃんを拝みに行きますか。
え?あれ?排水してない…だと?
「やる気は?」
「ZERO[zíːroʊ]」
「スゲーな、ネガティブみたいな発音な」
「ネイティブですよ」
「神奈子か」
「諏訪子ですね」
ちょっと待ってくれ、僕らはな。「遺構調査機構」さんの素晴らしい1枚の写真の風景を目指してやって来たんだよ、それなのに…そりゃ無いよセニョール。
相変わらず美しい写真、そのロケーション。この1枚に惚れて糞ツマラナイ鉱山道と難易度の低過ぎる雁掛沢を遡上したのに、なんで枯渇してるんだよ。ちゃんと前日まで雨も降っていたし実際沢の水量も多いし…それなのに何故…。
ガックリ来た、撮影意欲が削げた。もう駄目だ、帰りたい。
余談だが「遺構調査機構」さんのレポートはどれもが詳細で特に鉱山内の写真が大変美しい、廃虚や鉱山などに興味が無くてもその素晴らしい画像に息を呑む筈。
遺構調査機構
http://www.geocities.jp/shyu0530/
しかし有名な六助沢じゃなくてマイナーな雁掛沢まで来たんだ、少し位登って行こうじゃないか。この沢の上流へのアプローチはロープも要らないしな、沢シューズじゃなくてブーツだけど行けそうだ。
「こりゃ簡単そうですね、全裸でも行けるでしょう」
そう呟いて服を脱ぎ出した相棒に叱咤する。
「てめぇ山ナメるんじゃねぇぞ、そうやって油断するから滑落したり道に迷ったりお湯捨てる前にソース入れちゃったり米澤円の凄さに気付かなかったり尖閣諸島は日本の
省略されました
さて、ココからは沢屋の本領発揮。スイスイと登っていく訳ですが全く同じ風景が続きますので1枚だけ貼って終わりにしましょう。
緩い傾斜に見えますがこの先に進むに連れてどんどんと急斜面に成ります、途中巻いたりトラバースしたりして六助沢に回り込むのが沢屋のルートですが今回はこの辺で引き返します。それもこれも全部はヤル気をゴッソリと削いでくれた大捷坑、何で排水してないんだーっと。
いや、実は現地調査でその答えを知る事が出来ました。
雁掛沢に残る秩父鉱山の関連遺構ですが実際には鉱水(鉱毒)の処理に伴う為に色々と工事が行われています、2012年も結構な工事が在りまして岩壁造成、鉱水配管の補修と新規設置など。その中にこの大捷坑の鉱水を排水用パイプに直結させて処理施設まで流し込む工事が行われておりました、つまりは大捷坑の坑内はカラカラで侵入も出来ますし内部を高出力ライトで照らして撮影する事も可能です。
坑内を撮影したい方にはウッテツケと成りましたが排水の現場を楽しみにしていた者としては非常に残念なこの工事、配管の設置は幾つか予定されている様で今後も増設される様です。よっぽどの大雨ならまだ排水を拝めますがそれも排水管が増設されるまでの間であって何時まで見れるか解りません。
第二沈殿池の大規模造成の話も出ている様で噂の段階ですが今後あの場所がどの様に変化するのか大変興味が在ります、が…もう行く事は無いだろうなぁ…。
以上、本命「大捷坑排水」の時期を逃した「秩父鉱山雁掛沢」レポートを終わりたいと思います。ガッデム
最後にコノ場所から少々離れてはいるけど奥秩父の山々の怖さを知る災害事故が数年前に在った、埼玉の沢を歩いている人には非常に有名なお話。この事故の内容を紹介して終わりたい。
1次被害として最初の犠牲者は「東京都連盟2010年沢教室」の「沢登り登山教室のプログラム」中に滑落した女性、この女性に関する「沢登り登山教室のプログラム」に対する様々な初心者的な行動が取上げられたのだけどここでは割愛しよう。
そしてこの女性を救助に向った「埼玉県防災救助隊」の防災ヘリコプターが墜落、救助の為に乗り合わせた5人が全員亡くなっている。この事故が2次災害と成る。
次にこの事故現場の撮影に向った一般の方(と言っても極一部の人には有名な存在だったけれども)が事故現場から100メートル手前で滑落、防災ヘリコプター墜落現場の現場検証に向う途中の埼玉県警秩父署の署員が発見。しかし発見時こそ意識は在ったもののその後病院で死亡が確認された。驚く事にこの3次災害までが7月25日同日に起きている、ホント驚き。
月を挟んで8月1日、今度はこの事故現場を取材しようとした日本テレビのクルー2人が取材規定を無視し、ガイドの警告さえも気に掛けず強行登山。その結果遭難して2人とも亡くなっている、最初の滑落事故から合計9名の死者を出した場所は奥秩父の滝川と言う所。
沢屋には有名な滝川ブドウ沢、生粋の沢屋なら実はそれ程の難所が無いルートの筈なんだけどなぁ。って油断が一番危ない事を既述の連鎖災害が指し示している、ホームとしてる房総の山々も実は危ない地形が溢れている。
一見して緩いルートにいい加減なルーファン、そして知識と装備の不足。事故や災害を引起す要因としては上位に入るだろう、後は経験豊富が故の油断とか。沢歩きやクライミングはとっても楽しいけれども危険とも隣り合わせって事を留意して楽しんで欲しい、これから沢を楽しみたい方には特に気に留めて欲しい連続遭難事故をご紹介しました。
アプローチ
ニッチツで有名な小倉沢地区、県道210号線上の秩父鉱山簡易郵便局の先の枝(旧鉱山道)から第二沈殿池へ。そこからは願掛沢を遡上して大捷坑へ。
地図リンク
http://yahoo.jp/s0ax7u
photograph - nee