千葉県│湊川水系本村川源流 - 前編
滅びの美学 [ 廃墟・廃屋・遺跡・廃村・廃道 ] 探索 - 湊川水系本村川源流
正直舐めていた、房総半島には間滝を越える面倒な滝は無いと。正直侮っていた、房総半島に梨沢を越える美しい沢は無いと。千葉県の沢は意外と凄かった、その最終兵器が満を持しての登場だと銘打ちたい。
冒頭にも書いたが、
この2つの物件は房総半島でも抜きん出て美しく、そして沢屋として純粋に楽しめる数少ない景勝地だ。特に間滝は近年では最短ルート(※1)が一般化するまではそのアクセスの悪さから数十年と新たな情報が無かった場所でも在る。そんな間滝さえ稚戯に思える場所をご紹介しよう、
湊川水系本村川源流。
ここはヤバい、兎に角ヤバイ。傾斜のキツイ深い植林+ブッシュと倒木、そして切り込んだゴルジュ。地質は泥岩質で崩落箇所も多いと言う沢歩きの”泣き所”が大盤振る舞い。ヤマダニやヤスデ、マムシさんの楽園でも在るこの場所、人を寄せ付けないその地形は原生する生態系と美しいゴルジュを今に残していた。
※1:県有林を無許可に通過するだけでなく、案内板まで勝手に設置して開拓されたルート(旧作業同)。
この美しいゴルジュに魅せられるキッカケと成ったのは山岳会の知人から送られて来た1通のメールの内容に起因する、
「鹿野山にやべぇ沢在るんだけど見て来てくんねぇ?」
要約するとこんな感じ、東沢や丹沢ならまだしも房総ですか。確かに房総の山は低く、登山としての難易度は低くて面白みに欠ける。一方で高低差の激しい起伏に富んだ沢の形状はオフシーズンに全国の岩屋や沢屋がトレーニングに集まる程、温暖な気候で冬季でも安全に自然が楽しめるのも手伝って密かに人気が在るのだ。
結論として今回の本村川源流の沢アタック、房総半島の中でトップクラスに厄介なラスボス級の物件でした。危険な場所だとは聞いていたから出発前に情報収集に取り掛かったのだけれどこれが全くと言えるほど手掛かりが無い。
場所は幸運にも山岳会の方からお聞きしていたので現地に到着出来れば自分達でどうにか攻略は出来るだろうと思う、しかしレポートに必要な歴史や情報はどうやって仕入れれば良いのだろうか。
色々と思案して県内の航空写真を撮影している測量会社さんに協力を願って現在公開されていない古い時代の測量データを閲覧、また海外のウェブサービスから米軍が撮影したこの地域一帯の航空写真を入手。そこからは古書や聞き取り調査でこの沢の外殻を少しづつ剥がして行く作業が続いた、伝聞記録も多分に含む内容だけれど少しでも多くの情報を残せればと今回のレポートにドリップしている。
実質調査としては本流湊川から支流の飛清川を経て更に支流の本村川、更にこの本村川を形作る支流の一本として現在では涸沢が残っている場所が今回の目的地だ。
手掛かりが少ない以上は現地での状況を優先。必要十二分な準備を行い、早朝4時に自宅を出発。予備物件を撮影して現地に到着したのが9時過ぎ、ここから地獄の山行が待っているのだがその先には房総半島とは思えない絶景が待ち構えて居ようとは夢にも思ってはいなかった。
それではレポートを始めましょう、ツーマンセルで挑んだ房総半島の最終兵器をお楽しみ下さい。
車のデポ地は鹿野山カントリークラブから程近い神野寺の駐車場、ここをお借りして着替えと装備の装着を行う。今回は最初からラペ装備(※2)で完全に崖対応を念頭に置いている、ロープも小分け(※3)で3本の合計60m。ジョイント器具も用意しているので60m一本降下にも対応出来る、まあ房総にはそこまで高低差の在る崖や滝は珍しいので小分けで使用して上手く目標地点まで行ければと考えていた。
※2:通常のクライミング道具+スリングラダーや登攀器具、シャックルプーリーなど。
※3:豚鼻や小型のカラビナなどロープとロープを接続する道具、ロープワークでも代用出来る。
国土地理院の地図で等高線を参考にすると航空写真ではこんな感じで行程は進む、3mまではフリーで対応してそれ以上は身体能力依存とナイロンスリングで対応。それ以上の高さや難しい場所はロープを使用してクリアして行く予定だ。
神野寺の駐車場の裏手から植林地帯に入る、が既に傾斜が殺人級(※4)で降下出来る場所がかなり限定されてしまう。比較的緩やかな地形を舐める様に降下、しかし緩急と言うか起伏に富んでいると言うか…兎に角歩き辛い場所だ。
[ GPSの感度の位置補足の精度を記載しています ]
電波感度:||||||||||
位置補足:誤差5m
※4:傾斜が急なだけでなく、踏破可能な場所が限定される場所も多数で困難を極める。
[ 注意 ] クライム経験者及びロープワーク熟練者以外の来訪は避けて下さい
この場所の入渓ポイントは詳細に説明はしません、序盤こそ体力に自信が在れば進める行程ですが落ち込んだ地形のゴルジュ帯に関しては房総半島とは思えない難易度の高いエリアと成ります。木々に阻まれGPS感度は低く、また携帯の電波も疎らです。ソロアタックは元よりツーマンセルでも危険な状況が多々予想されます、生粋の沢屋や岩屋(※)なら問題在りませんが興味本位での立入は切に控えて欲しい場所です。
※ 沢屋や岩屋なら特に問題無いレベルと思われます、エントリー表記での難易度は一般の見識を具体化した内容です。
傾斜がキツくて樹木達も根を伸ばしながらへばり付く様に成長を続けている、根が出ている原因は豪雨などで斜面の土が流されたか地盤が弱くて他方へ延ばさないと幹を維持出来ない、または地質的な問題が在るなど色々と考えられる。この場所は急な斜面と地盤の問題の様だ、登りに関してはフック+ステップ(※5)として機能してくれるので実は以外に在りがたい。
※5:急斜面において延びる根は正に雲の糸と言えるバイトポイントと言える、実際何度も助けられた。
時折現れるフロア(※6)に少し気を緩める、相棒も前日にボルタリングで剥がした爪を気にしながら歩いている…のか?。
※6:重力が真下に働く水平の場所、非常に在り難いエスケープポイントと言える。
降下地点としてどうにか利用出来そうな場所を見つけた、標識など一切無い山中でも誘われる様に導かれる場所が在る。きっとココがベストなポジション(と自分に言い聞かせて)、ベースと成る樹木もシッカリとしていて心配なさそうだ。ここからまず3メートル程降りて45度程度の緩い斜面を経由して4メートルの壁面をラペリングで降下、房総特有の泥岩質だけれどナメと言うよりサラっとしてる(※7)。まあどちらにせよ滑るのですが。
それじゃオッパジメますか、この難攻不落の涸沢にギャフンと岩瀬太郎っ。
※7:泥岩質でも長期間涸れが続くとサラサラの表面に、その代り崩れる時は大規模にボロっと落ちます。
そうだ、最初にこの沢の全体図を見て貰おう。
現在の合計7メートルの降下地点を基準とすると最終目的地の連続瀑布(涸滝)までは直線距離にして300~350メートル(高低差の在るゴルジュ帯入口まで)、大荒れの沢なので総合的には倍の距離を歩かされると考えて良い。山岳会の方からは「テクニカルな場面が多いから丸一日掛けて遊んでおいで(ニッコリ」と言われているので体力を温存しつつ攻略を進めて行こう。
まずは入渓の為に着地点(※8)を良く確認して降下開始。
※8:着地点がポットホールだったり堆積物が軽くて実は凹地だったりと確認作業はとても大切です。
太くシッカリしている樹木にロープをセット、そこから3メートル降下して中間ビレイを確保する。斜面だけれど足場は固い、多角的な場所なので人を介してロープの垂らす方向を変えて更に3メートル程降下したのがこの写真。
プーリーをセット出来れば良いのだけれど捨てロープのスリーストランドで10mmオーバーはそもそも入らない、スリーストランドはグリップが高いからその間々下方7メートルのゴルジュ壁に取り掛かろう。
※ 三打は捨てロープとして意外と使える、命預けないレベルなら意外と重宝するのです。
地形が入り組んでいて降下し辛い、が涸沢の為か壁が意外とナメていないのでスンナリと降りる事に成功。写真は降下途中の僅かなステップでシェイク中の1枚、マッシャーなどを使う場面でもない。
元々は神野寺付近が山頂の小さな山が在り、その入り組んだ山間から湧出している自然水と地中に含有されている雨水が源流と成った沢だ。これは最後尾で説明するので興味が在れば読み進めて欲しい、開発前の古い航空写真を交えて解説したいと思う。
話を戻すけれど房総半島がまだ製炭産業を残していた頃は随分な湧出量を誇る川だったに違いない、それが道路整備によって県道93号線が出来ると源流とその直下の滝の間で分断されてしまう。
これに因って周辺では整備後に水害が幾度と無く発生してその場限りの砂防ダムやコンクリートによる整壁工事が行われた様だ、現在では下水整備が整った事で水害に悩まされる事も無くなり、過去の産物と成った砂防ダムなどの崩落破片が沢に転がり落ちている。
※ 砂防ダムの破片が原因で様々な問題が発生、詳細は後ほど記載します。
※ 毎度ですが捨てロープとして補助用のスリーストランドで降下してますが本来は全てカーンマントルを推奨します
photograph:+10
降下地点から上流側を撮影、中央で二股に分かれており、向って左側は製炭時代の旧道(廃林道で地図には辛うじて描かれている)から見えるガリーに続いている。右側は源流へ続いていて涸滝(※9)がこの先に残る、GPS上では上り詰めれば車のデポ地付近に到達出来る様な位置関係だ。
※9:滝の名前は確認中です、判明するまで今暫くお待ち下さい。
photograph:+10
二股右側(源流)に進入、この先に小滝を含んだ複合滝が幾つか残り、本源流近くには名称未確認の滝(第一瀑布)が。この滝の名称は行政や関係が予想される各所に確認したが記録に残されておらず、測量関係企業のデータベース(地図製作に利用される測量データ)には名称不明の川(滝表記無し)として書かれていたので何れ確認したい最重要項目だ。
photograph:+10
中央左側のガリー、恐らく旧道から降下出来るものと推測される。しかもそれだけじゃない、現地で幾つか思いついた事がある。
photograph:+10
現状今見えているゴルジュの上部へ行くのは現在地から稜線沿いに目視出来る事から実際に行く事は可能だ、成らば今回の降下地点よりもステップが多い中央の壁面や左側の傾斜の緩い壁面をフリー(※10)で降りる事も可能では無いか。
※10:山間部の降下手段としてロープは温存したい、フリーで降下出来るポイントはその必要不可欠要素。
降下地点やその方法は更なる調査の為に次回までの課題としたい。
第二瀑布へ続く狭いゴルジュ間のフロア、昔は水量が在って流れも強かった事が両壁面から伺える。ましてこの川幅(1.5メートル程)だ、今では見る影もないが少々寂しい気がする。
中央に見える苔生した倒木、これは途中で折れてはいるものの滝口まで延びている。と、言うか滝口より更に突出しているので倒木の先までヨチヨチと歩けば滝の直下を見る事も出来そう。と、成れば。
ビレイの為に一度登攀して上部で待機人員を置いて丸太の上を慎重に歩いてみようじゃないか。
滝口、ここまでは丸太から地上までの高低差が少ない為、恐怖心も無い。が、丸太自体は腐っている為にいつ折れてもおかしく無い状況だ。ここから更に突出している先端部分に向う、空中散歩は凡そ2メートル。
photograph:+10
写真では解り辛いかもしれないが直下10メートルの滝口よりも先に出ている、丸太は相変わらずメキメキと音を鳴らして警報を鳴らす。
下方を見ると滝壺付近が非常に複雑な形をしているのが見えた、本来見えない滝壺も涸れればこの様に姿を現すのか。そしてその奇妙に形成された地形に好奇心が沸々と。だけれど降下出来る可能性が低い立地と状況だ、今回は対岸を巻いて最終目的に向うとしよう。
photograph:+10
ところ変わって対岸を上り詰めての急斜面。
最初の懸垂降下地点から対岸壁をフリーで登攀(※)して回り込む様に旧作業道方面へ、一度高度を上げて周囲の状況判断とルーファンを行います。
※ 残置ロープは帰路にて回収しています
最初の降下地点は植林地帯だったけれどここは自然群生している樹木の様だ。GPSで確認すると途中に狭いゴルジュが在る、山岳会の情報で崩落が沢を埋没させている上に倒木が進行の邪魔に成っていると聞いていたのでその場所を避けての行程が僕らにとっての予定設定ルート。
この面倒なルート取りも踏破不可能エリアの存在を踏まえ”巻いてから再度沢に降下”しようと現地で状況判断を下した結果でして、1時間近くロスはしたけれど思惑通りの場所に出られそう。
年間を通して源流湧出が枯渇した事で完全な涸沢と成っており、ゴルジュ壁面は砂壁化。その割りに土壌の雨水含有量が多い事で植物の群生を促して何処を歩いても薮、薮、薮。ハーフマディの非常に歩き辛い山中で脆弱なGPSを頼りに進路を南に向けて歩きます、ガリガリと体力を削られてメンタルゲージはもう僅か。
因みに傾斜は写真の様な非常にキツイ状況、豪雨に因る土砂崩れも散見出来ている事から頻繁に地形の変化が生じていると予想されます。
地図を見る限りゴルジュで囲まれたこのエリア、しかし良く見ると傾斜の甘い場所が2箇所程見て取れた。その様な場所は崩落し易い形状とも判断出来るので安全に降下出来そうな場所を探しながらラペポイントを設定、フリーで降りれる地形だけれども返し(※10)の事を考慮して20メートルのロープを垂らした。
※10:帰りの登攀の事や体力を考慮してイージーな場所でもロープを出す判断も必要、傾斜角度より泥岩質や砂壁質でのバイトレスが問題に成ります。
GPS上での場所はここ、感度は最低を示している。時間は11時45分を少し経過した位、入山してからは3時間近く経過していても目的地に到着出来る感じが全くしない。期待する風景は高低差の在るゴルジュ、苦労してここまで来たのだし房総半島特有の歪な地形を見るまではどうしたって帰れないんだ。
[ GPSの感度の位置補足の精度を記載しています ]
電波感度:||||||||||
位置補足:誤差20m(時々圏外表示)
ラペの最中にロープをロックして目線を下方に向けてみた。解り辛いけれど崖の途中で首だけ下に向けた様な状態、少なくても見えている部分は全て崩落箇所と言えよう。
どうやらこの沢の中でも最悪の崩落+倒木地帯の先端に降り立つ位置関係、不幸中の幸いでギリギリこのエリアを巻いた場所に出る事が出来そうだ。
乾いた斜面でズリズリだけれど慎重に降下、時間はまだ在るので興味本位で崩落+倒木エリアに少しだけ足を踏み入れてみましょうか。
思いのほか威勢がよろしい
土砂崩れに巻き込まれた樹木が折り重なる様に天然のダムを形成している、更にその樹木から若い薮が発生。これはちょっと歩けない、地面も殆ど見えない状態だ。この中に入るとGPSは精度を落とすばかりか完全に沈黙、現在位置を見失ってしまった。
うん、もういいや。
photograph:+10
涸沢に降り立つと木々の合間から空が見え隠れ、お陰で微弱ながら現在地を確認出来る事が出来た。等高線には存在しない小さな落差(1m~2m程)の幾つかの涸小滝を下ってみると美しいゴルジュが姿を現した、そう…やっとこさで今回のメインエリアの入口に辿り着いたのだ。
地図上ではココ、車のデポ地から直線距離では300メートル位。しかし既に山中を数キロ分は歩いている、正直この手探りの山行は非常に辛い。
地形の所為で進行方向が定まらず、しかも時折現在地点も解らなく成る。加えて帰路を踏まえての懸垂降下、嫌な条件が揃い過ぎててもう。
だけれど僕らは歓喜する、緩やかに下るその先に求めていた風景が顔を出したのだ。
[ GPSの感度の位置補足の精度を記載しています ]
電波感度:||||||||||
位置補足:誤差10m
!!!
お、おおお、おいおい。何だこりゃ、ゴルジュの廊下が…こんなにも綺麗に続いているなんて…。既に頭の中で破裏拳ポリマーのOPが8ループ位していて「そろそろEDに切り替えるか…」とかちょっとヤバイ精神状態だったけれども既の所で正気を取り戻す事が出来た。因みにEDは1回だけ脳内再生した、短いからなっ。
予想以上に長かった(ポリマー8ループもな)、時計は12時半を過ぎた辺り。4時間近く経過してやっと出会えたこの狭い谷間だがその怒涛の美しさは留まる事を知らなかった、いや本当に凄いぞこの場所は。
この間々どばばぁーっと続けたいけれどアメブロのテキスト24キロバイト規制の為、後編へ続きます。後編は以下よりどうぞ。
※ エントリーは2日間に分けて行っております、後半は明日(141011/2000)に更新致します。
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