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REPORT - 0902│嶺崎医院(怪獣病院/龍の砦)

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6frogs 廃墟 嶺崎医院 怪獣病院 龍の砦


静岡県│嶺崎医院① 嶺崎医院 / 再調査編


滅びの美学 [ 廃墟・廃屋・遺跡・廃村・廃道 ] 探索 - 嶺崎医院(怪獣病院/龍の砦)


6Frogs - 行ってみたら凄かった。 │ 廃虚や廃村、秘境や遺構の調査レポート- 調査終わりました


2013年にウェブ上で初めて公開した怪獣病院の内部写真、それから約1年後の2014年夏。この物件を取り巻く事情は一転して大きく動き出した、全編(全5エントリー)を通してテキストリッチな内容だけれど興味が在れば最後までお付き合い願いたい。初めてこのエントリーを読む方にも解る様に再編集前の導入部を多少加筆した内容と共に、新事実を絡めて説明していく。


怪獣病院と呼ばれたこの廃墟の真実、そしてこれからをご紹介しよう。


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静岡県の伊東市、そこに建築デザインの関係者からはとても有名で最近(2013年当時)に成って廃墟好きがチラホラと取り上げ始めた廃病院の物件が残されている。特徴ある概観造形から幾つかの呼称を持ちながらその実体を詳細にまとめたサイトは皆無、情報源も殆ど見付ける事が出来ない不思議な廃墟。


新宿の軍艦マンションに代表される建築家の渡邊洋治氏が手掛け、「怪獣病院」や「龍の砦」と呼ばれる謎多き廃墟、改めて撮影した内部写真と関係者からの証言、そして現所有者への取材で判明した新事実をお伝えしたいと思う。


6frogs 廃墟 嶺崎医院 怪獣病院 龍の砦


廃墟が好きな方には「怪獣病院」と呼ばれているこの物件、廃墟年齢は凡そ20年程。しかし建造物としての歴史は更に数十年遡る事に成る、建築を手掛けたのは日本建築家としても異端児と評された渡邊洋治氏。故に建築関係者や建築デザインなどの学科を有する大学の教授、学生などは稀に訪れる事があるそうだ。しかし資料書籍やウェブサイトに至っても内部の写真が全く無い、これは何故なんだろうか。


2013年の取材当時、この廃墟の管理人さんに直接取材を申し込んで内部を撮影した。その時は十分な撮影機材を用意していないばかりか登山物件のついでに寄った状態だったのでその取材内容も正確な物と言えなかった、しかし2014年。


現所有者と成るYさん本人から直接メールを頂く事に成る、このYさんによってこの廃墟はその意味も姿も、そして忘れ去られた事実を含め大きく変動してしまう。それだけの変化を齎した今回の取材、内部写真は元より概観やそのデザインの意味も少しづつ掘り下げていくのでこのエントリー、ちょっと長いです。


写真解説:入口(道路側)から見上げた建物上部


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旭日旗が掲げられているがコレには意味がある、この嶺崎医院をデザインした建築家の渡邊洋治氏。その前職は陸軍船舶兵、旭日旗は正式には「大日本帝国海軍旗」だけれども軍艦旗として海軍以外が管理する軍艦にも掲揚されていました。


この嶺崎医院は「」と「軍艦」と言う2つのモチーフを元にデザインされているので一番高い場所に現所有者自らの手で旭日旗が設置されたのです、デザインなどに関しては後程詳しく説明するとしてまずはこの意匠、その生みの親を紐解きたい。


渡邊洋治 - ウィキペディア
http://ja.wikipedia.org/wiki/%e6%b8%a1%e9%82%8a%e6%b4%8b%e6%b2%bb


陸軍船舶兵出身と言う珍しい経歴の持ち主で建築デザインのその影響が散見出来る事で有名と成った、冒頭でも書いた様に軍艦マンション(第3スカイビル)のデザインを主導した事は建築デザインの世界では知らない者が居ない程のインパクト。


戦後ではまだ珍しかったRC技法をメインに陸軍船舶兵時代の影響で戦艦などをモチーフしたデザインが多く、また龍などをアレンジした造形も好んだ様だ。


写真解説:寄画だと軍艦の様にも見えるが離れると龍にも見える不思議なデザイン


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トグロを巻く蛇や龍の様に螺旋状に設計された建造物、「」と言う概念が少々曖昧な部屋の設計とその複雑な造形を生かした生活する人間への配慮。この建物は異形な概観からは予想出来ない程考えつくされた構造に成っている、この件に関しても後のエントリーで詳しく語ろう。


写真解説:2度と灯るとは思わなかった怪獣病院に久し振りの明りが


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嶺崎医院:正面入口


2013年当時の取材は管理人さんからお聞きした内容を纏めた物だった、しかしその方が2014年春に亡くなってしまう。追跡取材を予定していた所にこの物件を購入された方からの連絡、話はとんとん拍子に進み、そして整合性の確保に時間は掛かったけれどもこうやって公開出来た事はとても幸運だったと思う。


そして検証していく内に管理人さんの証言残された資料現所有者Yさんの調査とで食い違いが多々発見される。当ブログの保持している情報とYさんの資料、そして双方の調査から新たな事実や食い違いが次々に検証されていった。


歴史検証は後のエントリーで既述の疑問点と一緒に語る予定なのでまずはこの建造物、何より画像資料が少ない内部の状況をご紹介しよう。


写真解説:2014年怪獣病院概観、やはり異質な造形が目を引く。


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入口部分から見上げた状態、どうみても病院ではないし住宅にも見えない。が、それが何より異端児と呼ばれた渡邊洋治氏の真骨頂とも言える所以。


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嶺崎医院:敷地内スロープ


入口から回り込む様にスロープを登る、建設当時(1968年)の車両規格で作られている為に現在このスロープを行き来出来るのは新規格の軽自動車が限界、5枠ナンバー車両ではかなりキツイ車道幅と成る。


写真解説:スロープ外枠には雨水の排水溝が、始点は庭の池の排水。(※1


※1:この排水溝、雨水が一番下まで放水されると終地点に設置された小さな池に溜まる様に成っている。近年までこの下方の穴が池だと気付く者がおらず、Yさんによって判明した事実だ。


さて、ココからは本格的にこの嶺崎医院の設計図を見ながら説明していくとしよう。そう、実はこの嶺崎医院の当時の設計図が残っていたのだ。オリジナルにして複製品なし、今回その貴重な設計図をスキャンしてウェブ上でも初公開する。


※ 大変貴重で資料性が高く、全てを公開出来る段階に無いので各部分を抜粋して掲載します。


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嶺崎医院:ターンテーブル


スロープを登りきると病院入口ドア(左側)と住居入口ドア(右側)、更に左手には車両の方向を変える為のターンテーブル(※2)が。通電してみると驚く事にシッカリと可動、狭い車道幅を登りきってどうやってUターンするかと思ってみれば当時では本当に珍しかった車両ターンテーブル。如何に時代をを先取りした建築物だったかが解る一端だろう。


※2:ターンテーブル周囲のコンクリートにはスリット加工がされている、これはターンテーブルが鉄製の為にタイヤに水分が残り易い事を考慮しての事。このスリットで付着水分を落とし、坂道をより安全に通行出来る様にした。


写真解説:更にターンテーブルの整備用に設置されたフックなども現役に耐える状態でした


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スロープからターンテーブルを越えると庭先に、写真正面のシャッターに見える部分木製の引き戸で中は倉庫に成っている。この中にも当時の物が幾つか残されており、最後の所有者だった鏑木氏から現所有者のYさんにその処分は一任されている。


写真解説:庭先の樹木は建造物整備の為に数本伐採されて概観は少々異なっています


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嶺崎医院:建造物入口


入口、今見えている沢山の部位意匠もそれぞれに意味が。これらも後程。


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左側の病院入口ドア、消えかかってはいるけれど「嶺崎医院」とシッカリ確認出来る。この廃墟は「怪獣病院」、「嶺崎医院」、「龍の砦」などと沢山の名称が存在する事知られているのだけれど正式には「嶺崎医院」が正解。渡邉建築事務所の設計図にも物件名称「嶺崎医院」と記載されている、作品としては「龍の砦」と紹介されているが当時の建築関係誌では「反角円派の砦」などのキャプションも確認出来る、して通名はいつ頃付けられたかと言えば渡邉洋治氏本人が1970年の時点でそう呼称している(渡邊洋治作品全集参照)。


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嶺崎邸:玄関+ホール


右側の住居入口ドアを開けると広い玄関、正面は「看護婦室※2)」。左側の白いドアは病院側のホールと繋がっている。手前は下駄箱、右側は上階への階段入口と成っている。


※2:病院運営時に常駐看護婦や医師の休憩室と使用され、夜間の宿直室としても使用された。住宅専用に成ってからは客室にも使用されたが後期は物置と成ってしまった様だ。


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左側ドア(病院側)、2013年最初の取材時はこちらから屋内に入った。床が何処も腐っており、一歩一歩確認しながら撮影をする事に成る。


写真解説:木製ながら非常に重いドア


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嶺崎医院:ホール


住宅側と比べるとやや狭い病院側のホール、受付の対面には先程の住宅側と繋ぐ白いドアが。


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※ オンマウス(ロールオーバーで画像が切り替わります)


嶺崎医院:診察室


雨戸が十数年振りに開かれ、自然光が室内を照らす。前回は真っ暗だったが今回は開ける事が出来る窓や戸は全て開けて撮影に挑んだ、これによって前回は解らなかったディティールが確認し易く成りより細かなデザインに気づく事が出来た。


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嶺崎医院:診察室


先程のアングルの反対面からの撮影、本来ならば左側にと正面奥にベッドが設置されていた。部屋中央に受診者用のイスが在り、背面(写真では右側)には相談室レントゲン室(現像室)が。レントゲン室上部の赤ライトはレントゲン撮影時に点灯していた注意灯、運営当時はカバーが在ったと推測される。


写真解説:左側のスポットライトが丁度ベッドの頭の方向に向いて設置されていた


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部屋にはいまだ沢山の残留物が、これらから当時を計り知る事も出来る。実際残留物の内幾つかの納品メーカーや製薬メーカーは現存しており、その歴史を辿る事が出来たのだけれど今回は割愛しよう。


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嶺崎医院:相談室


本来は左側にソファー、右側にマットレスソファーが用意されていたが現在は右側のマットレスソファーのみが残る。この場所では診察後の詳細な病状などを患者やその家族に伝えたり、治療を行う上での家庭内での療法などを説明する為に使用された。


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嶺崎医院:レントゲン室


この建造物には数箇所200V電源が散見出来て不思議に思っていたのだけれど成る程、設計図を見ると「レントゲン室」と記載が在る。車用のターンテーブルやこのレントゲン関連機器に使用する電力が必要だった事に恐らくは起因する、一般家庭をベースにした病院だとしてもやはりそれなりの医療機器を揃えていたこの嶺崎医院。この辺の基礎設備も当時の一般住宅とは全く違う物だった様だ。因みに部屋の左側にベッド、中央右側にレントゲン機器が設置されていた。


※ 右側手前のドアが小さな倉庫、奥のドアが現像の為の暗室に成る。


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嶺崎医院:現像室(暗室)


暗室、レントゲン撮影の後直ぐに現像が可能だった。


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嶺崎医院:受付+調剤室


病院側のホール(玄関)から見えていた受付の室内、ここでは診察後に診断書に則った処方、調薬なども行われていた。


※ 会計もココから行われていたました


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嶺崎病院:待合室


玄関から真っ直ぐ行くと待合室だ、右手奥にトイレ、左側が待合室と成っている。左側にドアが在って先程の診察室へ繋がっている。正面に見えるのは本棚、文庫本や漫画、雑誌が各段に纏められて置かれていた。


※ お願い


この本棚に当時(1968年~1978年)発刊されていた文庫本や雑誌を復元したいと考えております、当時の雑誌(特にジャンルは設けませんが病院に当時在ったであろう本)をお持ちの方。どうか寄贈して頂けないでしょうか、宜しくお願い致します。


ご連絡は左メニュー「連絡はコチラから」よりお願い致します。


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待合室正面はベランダに成っている、この場所が入口から一番遠い事から災時には避難経路としても用意されていた。しかしコレがまた素晴らしいアイディアで設計されている、場所的にはスロープ中程真上に位置している関係で庭側の陸地とは若干隙間が在って年配者には越えるのに苦労しそうな幅。しかも高さが2メートル以上ある、しかしこれを渡邊洋治氏がデザインすると…。


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嶺崎医院:避難経路


写真は庭側から先程説明したベランダを写した物、奥の明りは待合室の物だ。


当初コレが何なのか全くと解らなかった、が…設計図を確認して再度可動部分を見るとコレが成る程と頷ける非難経路に。


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鉄部が腐食して錆だらけの為に現在身体を預ける気には成れないが立派な通路として当時は役割を持っていた事が解る、スロープを登る過程で下から「この鉄部は何だろう?」と疑問に思っていたけれど可動式の避難経路とは驚きましたですよ。


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車を駐車して最初に目に入ったのが実はコレでした、下方からは一体「」なのかは解りません。稼動するとも思えず、全くの謎だった訳なのです。


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細部までに拘りを見せる病院内の意匠、しかしこれはまだほんの序章に過ぎませんでした。住宅部分には更なる居住者への配慮、そして元陸軍船舶兵として養われたアイディア、建造物全体への総合的なバランス感覚、その何れもが合理化を優先させた現代建築物は一線を画する造形美で溢れていたのです。


次回のエントリーでは住宅部分(嶺崎邸)を中心にこの建造物の更なる核心へ皆さんをご招待しましょう、ホントにこの怪獣病院は面白いです。


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現在(2014年8月~2014年5月頃までの予定)この怪獣病院(嶺崎医院)保存の為の改修工事を行っております、今後のこの建造物については近日公開予定のウェブサイト(怪獣病院保存プロジェクト仮)で公開予定です。詳細が決まり次第、当ブログでもアナウンス致します。


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※ 不法侵入が頻発した為に敷地内警備を強化致しました、無許可の撮影や進入はご遠慮下さい。
※ 取材(報道及び大学関係者)・撮影の申請などは今後公開予定のプロジェクトサイトをご覧下さい。


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※ 2014年12月20日:前回の来訪エントリーと情報を検証した上で統合し、再編集しました。


アプローチ
国道135号線から県道108号線を伊東線宇佐美駅方面へ。そこから私道を2本経由して川を越えた住宅地に在ります。


地図リンク
http://goo.gl/maps/Wx1I2


photograph - koichiro(FUJIOKAPIX)/ 6FROGS DESIGN WORKS


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