福岡県│九州北部豪雨災害 朝倉被災地域
滅びの美学 [ 廃墟・廃屋・遺跡・廃村・廃道 ] 探索 - 九州北部豪雨災害 朝倉被災地域
2017年07月05日~06日掛けて九州北部で凄まじい豪雨が襲った、その雨量は該当地域の観測史上最高に達するもので梅雨前線に伴う継続的な大雨と台風3号に起因するものだった。
平成29年7月九州北部豪雨 - ウィキペディア
当初の報道でも十分な被害報告だったが後に予想を上回る大災害となる
九州大学の川村隆一教授によれば「前線南側の太平洋高気圧は平年に比べて勢力が強く、大陸から南下した高気圧との間に挟まれた梅雨前線付近の上昇気流が一層強まっていた。そこに太平洋高気圧の西縁を通って南から多量の水蒸気を含んだ空気が流れ込み続け、線状降水帯が持続したとみられる」との事で今回の洪水災害のネックとなるのは”線状降水帯”の様だ。
線状降水帯 - ウィキペディア
https://goo.gl/TXkN57
この線状降水帯によって同日別地域においても甚大な被害を齎し、大分県や島根県でも大小含めて実に多くの被害状況に関する詳細が各種メディアで流れたのでその辺については割愛しようと思う。
今回はこの大災害から2週間(※2)経過した現地を改めて来訪、どの様に復興が進められているのかを見て来た。運良く熊本市の職員さんや一番被害が大きかった杷木星丸地区でご一緒した福岡放送さんからお聞きした内容なども含めてレポートする。
※2:2017年07月21日から現地入りしました
一般の立入が禁止されているエリア(※3)では未だその被害状況は芳しくなく、自衛隊による必死の捜索活動や瓦礫撤去作業などが続けられていた。建造物や道路、田畑などを含めて通常の生活に復帰出来るまでおよそ3年。更に完全な復興までは5年の歳月が必要とされているこの災害の今をお伝えしたいと思う。
※3:メディア報道の取材許可を得て入っています
最初に訪れたのはテレビの報道などでも頻繁に中継がされた朝倉市宮野地区、この付近では桂川と筑後川が共に氾濫して各川から流れる支流や用水路など危険水位を突破。周囲の施設や歩道を濁流が遅い、大きな被害を出した。
桂川は場所によっては通常の10倍の川幅に、筑後川は元々大きな川であったがそれでも5倍に川幅が広がっていた。
地図を見て頂ければ解ると思うのだけれどこの場所、川でも用水路でもない。普通の道路なのだ、集を田園に囲まれた特筆すべきロケーションではないが行き場を失った雨水は田畑に滞留し、そして氾濫した川の水も合流してこの様な有様に成ってしまった。
付近の主要道路さえ水没し、数多くの車が流された。中には人が乗ったものもあったと行政職員からお聞きした、この場所で偶然お会いした熊本市の職員さんによると今回の被害状況と記録して今後の災害対策に役立てるとの事。
そう、直接被害に合わなかった地域においてもこの局地的災害の現場は学ぶべき事が多いのだ。ここで朝倉市の行政サイトを見てほしい。
福岡県朝倉市 - 行政サイト
https://goo.gl/LdX5uz
「朝倉市では、平成21年6月に筑後川、佐田川、小石原川を対象とした朝倉市洪水ハザードマップを作成しました。このマップは、概ね150年に1回程度起こる大雨(想定雨量:48時間521mm)が降ったことにより、筑後川、佐田川、小石原川が氾濫した場合を想定して、浸水する範囲と浸水深、避難所等を示したマップです」
と言う記載と共にハザードマップのPDFリンクが貼ってあった。
朝倉市洪水ハザードマップ(PDF:6.74MB)
https://goo.gl/4DKadU
注目すべきは”150年に1回程度怒る大雨”だ、そう…行政はシッカリとこの地域の洪水についてある程度認識しており、しかも対策(防災整備)も行っていた。隣接する市の職員が視察にきていたのは、
平成21年7月中国・九州北部豪雨 - ウィキペディア
https://goo.gl/RdPT64
この様な過去があったからこそなのだ。
07月06日になると被害状況が明白に、洪水対策を上回る降雨量だった事が解る。
工場から流失したのか、大きな機械片が道路に転がっていた。眼前の田畑は干上がった川の様で地形が大きく変化していた、地図を見ながらでないと元々の様子を窺い知る事は本当に難しいのだ。
因みに無知な輩が「異常気象がー」「地球温暖化がー」と騒いでいるがこの地域の大雨・豪雨は全く関係なく、周期的な気象現象だとされている。限定地域と言うか局地的な集中豪雨は気象条件や地理的条件とかなり密接な関係にあり、今後もその多岐にわたる要因を細かく精査していく必要があると気象庁も発表している。
少々移動して県道80号線沿いの朝倉市立比良松中学校、こちらも実に沢山の報道機関が中継を行った場所なので見覚えがある方も多いと思う。
ストリートビューと見比べるとその被害の大きさも実感出来るだろう。
戦後の風景かと見紛う被災状況だった朝倉市山田地区。
国道386号線を走っていると突然家屋の倒壊や用水路の氾濫跡が見て取れた、これは南側の筑後川が大氾濫して支流も溢れ返った事で付近の住宅が浸水。流れ出ていた土砂と流木で倒壊する家屋も続出した。
今回の洪水被害では”線状降水帯”と共に”流木による濁流被害”が注目されている、テレビでも中継された流木被害は如何にして起きたのだろう。
朝倉市と東峰村に押し寄せた流木は少なくとも20万トン(※4)と推定されている。これは山に囲まれた地域で特に顕著で山の地中に貯水出来る容量を大きく上回って土砂崩れが起き、大量の流木が発生したものだと分析されている。
※4:13日に福岡県が公表したデータ、大分県を含めた流木の全体量はまだわかっていない。
「住宅などへの被害を拡大した上、救助や復旧活動の妨げにも」
九州大学大の矢野真一郎教授は被災現場を見てその様に話している(以下リンクより)。
九州北部豪雨 “流木”の脅威と対策は - NHK NEWS WEB
http://archive.is/Gqcdp
分析内容が非常に興味深いので是非ご覧下さい。
筑後川から延びる支流、この辺一帯がやや標高が低い事と平野部分が扇状に広がっていた事が被災した理由。筑後川からの逆流と上流からの土砂が丁度合流してしまい、天然のダムを形成して甚大な被害を周囲に齎した。
押し寄せた流木によって家を貫通して土砂が流れ込んだ。
この流木、実は土砂崩れだけでなく地域産業も密接に関わっている。今回被災状況が特に悪い朝倉市や東峰村、大分県日田市では林業が盛んで、山間部に植林されたスギが大量に土砂と一緒に流出した。
本来の自然森林であれば強い根と大量に許容できる地中の水分貯水量がこの様な大雨から麓の居住区を守ってくれる筈なのだが…が、今回の流木は植林されたスギ。
「スギなどの植林地は、人の手で木を間引く間伐をしないと太陽の光が入りづらくなり、しっかりと地面に根を張ることができない。そのため、間伐を行わないと強風や大雨などの際に倒れやすくなったり、辺り一帯の地盤が崩れやすくなってしまったりする」
日本テレビが取材した林野庁及び流木被害の専門家(詳細表記なし)によると上記の様な要約された状況が引き起こした二次的災害でもある様だ。また内閣府の担当者は、今回のような流木の被害について
「根本的な対策をとれる段階に至っていない」
と取材に回答しており、今後の見直し案にも大きく影響すると予想される。
国道386号線の側道からは道路や敷地に関係なく土砂が流れ込んでいた、手前の車が埋まっている場所は本来個人の畑。運悪く流れが滞留して奥の駐車場から車が流されてしまった。
国道386号線の歩道部分、瓦礫撤去と土砂撤去の為に歩道と車道の片方がこの様な状態、車道は勿論片側通行で慢性的な渋滞を引き起こしている。
ここからは今回の洪水で一番の被害者を出した筑後川水系赤谷川の立入禁止区域に移ります、このエリアは現在でも一般の立入が制限されており、山斜面の地滑り、滑落・崩落、家屋の流出、その他土砂や流木によって死亡者が30名を超えた場所で自衛隊による復旧作業が継続しています。
雨が落ち着いた09日、時事通信者の記者が現地を取材している
国土交通省が公表している朝倉市ハザードマップによるとこの杷木星丸地区の氾濫危険水域は6300mm、市内の危険水域と比べる約二倍も猶予があるにも関わらず、山岳部の崩落が仇となって非難を遅らせた要因にもなっている。
つまりこの区域は普段より洪水とは無縁の地域だった事になる、今回の洪水においてこの場所は川の氾濫による被害と言うより土砂崩れとの弊害が問題だった。しかも赤谷川の氾濫も大規模で本来の川幅の約20倍にも達し、川沿いの家屋は容易に流されてしまったのだ。
非難が遅れた要因は先程の通り、川の氾濫より山間部からの土砂崩れで避難経路が遮断され、様子を見ている内に川が氾濫。それにより30名を超える死亡者が、地形的な問題が大きく関与した大災害となった。
ストリートビューだと在りし日の本松酒店の姿が、洪水時に2階部分まで土砂で埋もれてしまった。
尋常ではない土砂が流出し、裏手の山の地形も大きく変化。流れ出た土砂は突っ切る様に低地の星丸地区へ流れ込み、赤谷川と合流して周囲の家を飲み込んだ。
この様な被害は実は他にも記録が多数ある、今回は度々出てくる”線状降水帯”の継続的な降雨に寄るものだが地形的な気象条件で言えば”バックビルディング現象”が被害に至る背景として近いかもしれない。
バックビルディング現象 - NAVER まとめ
http://archive.is/4OQSf
この現象については現在も研究が続けられており、集中豪雨の被害形成に貢献できる内容だとして注目されている題材でもある。
更に移動しよう。
集落内の至る所で洪水の跡かと思われる水溜りが見られるがこれは家屋の洗い流しで自衛隊が高圧洗浄機で使用した水の排水跡、裏手の山斜面の整備を進めつつ高所の家屋や道路から順番に洗浄している。残念ながら業務用敷地や田畑は後回しになってる様だ。
記録的豪雨から1週間後の様子、既に復旧作業が開始している事が動画から見て取れる。
集落唯一の自動車修理工場兼中古車販売店、今回の洪水で廃業も視野に入れなければ成らない状況だ。
星丸地区の住宅を飲み込んだ赤谷川、通常は3メートル程の細く穏やかな川だが今回の洪水時には20倍、場所によっては更に倍の40倍(120メートル)もの川幅に。
田畑は全滅、護岸工事も流出した土砂と流木が邪魔で撤去作業が進まない様だ。人的被害は甚大で既に記載したとおり、まだまだその被害が広がる今回の九州北部豪雨災害。現場を改めて訪れると緊急を要した災害時とはまた別の姿を見る事が出来た、そしてこの取材中に起きた遠方秋田県での水害。
2017年の夏は水災害と向き合う年と成りそうだ。
最後に被災者と行政の対応の在り方について問題視されている動画を、この動画の中で1人の男性(50歳代の被災者)が行政職員を罵倒している姿が映し出されている。
どう思われるかは視聴者の判断するところだが状況としては
付近の住民が志波小学校に避難、その後気象庁の天候悪化の発表もあり行政と警察で避難場所の再検討が行われる。裏手の桂川支流(用水路)が氾濫して志波小学校も倒壊の危険性が。安全の為に更なる避難場所へ移動を求めると、被災者が何を思ったか大声を張り上げる。
「ふざけるな!移動はしない!」
「市職員が身体の悪い人や高齢者を、一人一人移動させろ」
と意味不明な言動を発する。これに感化された数名が志波小学校からの避難移動を拒否、避難準備情報から避難勧告に移行したとはいえ強制力がないので行政職員や警察、消防関係者は避難民を連れて校舎(※5)へ移動。
※5:体育館から校舎への譲歩案でさえ移動拒否した様だ
これが「避難指示」であれば多少の強制力(※6)はあるがそうだとしてもこの様な輩は何かと文句を着けるのだろう、そもそも行政はこの状況下で住民の避難強力しているだけで避難誘導の責任など皆無。記憶を遡ればこの様などうしようもないアレな人達は過去にもいた。
※6:後に避難指示に移行したそうです
玄倉川水難事故 - ウィキペディア
https://goo.gl/gpNfPK
この避難拒否と良く似た所謂”逆ギレ”状態だ、この時市は移動の為にバスも用意したがこの無意味な拒否者の為に結局無駄に。他の避難者に散々と迷惑を掛けた上で結局後から校舎へ自主移動した。その後この方へ追跡取材した報道関係者は居ない様だが実に興味深いと思う、個人的見解としてはより多くの住民の安全確保の為ならば無意味なクレーマーを放置しても問題ない…そんな法整備も必要なのではないかと考えさせられたのでした。